ポラリス

ポラリスデイサービスセンターをご利用いただいている方々に
お話しを聞かせていただきました。

「きょうこさん、なんだか足を引きずっているみたいだけど…。」後ろを歩いていた友人が私の異変に気づいたのは、平成6年のことです。それまでの人生の中で大きな病気をすることもなく生きてきた私を襲ったのは「パーキンソン病」という病でした。あの頃はそんな病名聞いたこともなかったものですから、処方された薬もなかなか飲む気がしなくてねぇ…。だけど手足の震えは日を追うごとにひどくなる一方で、とうとう家の中をまっすぐ歩くこともままならない身体になってしまいました。そうなる前の私は習い事が大好きでね。踊りやお花の先生もしていたほどです。いつも仲間とスイミングスクールに通って身体を動かすのも日課だったけれど、この病気になってからは人の目が気になるようになってきてね。陽のあたる世界を避けるようにして、私は人とのつながりを断ちました。


そんなある日、暗い毎日に追い打ちをかけるようにあの震災が起こったのです。津波のショックが影響したのか、私の症状は驚くほど進行してしまいました。転ぶ回数も前より増えて、家の中にいるのに身体中アザだらけという状態でね…。先が見えないというのは、こういうことなんじゃないかなと思いましたね。

ケアマネージャーの方が私に差し出したのは、「ポラリス」と書かれた一冊のパンフレットでした。はじめは人の目が気になって仕方なかったけれど、ここにいる人たちは私をあたたかく迎えてくれたんです。それがとにかく嬉しくてね。本当はにぎやかなところでみんなとおしゃべりしたり、一緒にお出かけするのが大好きでしたから。パワーリハのマシンをはじめて目にしたときは「こんなにたくさん運動できるかしら」と少し戸惑いもありました。だけどトレーニングを終えたあとに疲れを感じるようなことはまったくなかったので、これなら私でも続けられると思ったんです。通いはじめてからというもの、笑顔を見せるようになった私の姿に家族もみんな驚いていました。


私の自宅はポラリスから少し離れたとなり町にあります。車でしか通えない距離ということもあって、今は3人の子どもたちが交代で送り迎えをしてくれています。そんなふうに応援してくれている家族のためにも、私はここで“ポラリスに通いつづける”という目標を立てることにしました。

ポラリスは本当に不思議なところです。普段私は自宅でまっすぐ歩くこともできないのに、パワーリハを終えて迎えの車が来てくれた頃にはすたすた歩けるようになるんです。理由はわかりません。だけど私はこの瞬間、生きていることを実感することができます。パーキンソン病は不治の病です。トレーニングを続けていても、いつかは歩けなくなるでしょうね。言葉を話せなくなる日もきっと来るだろうし。だけどね、せめて自分の身のまわりの世話くらいは最後まで自分でどうにかしたいんです。大切な家族のためにも、私がここに通いつづけることでみんなを安心させてあげたい。私がまっすぐ歩けること自体が、家族にとっては奇跡なんですから。


この気持ちに波はあるけれど、今はこの病気と向き合っていくことを静かに受けとめています。生活の中にもちょっとした知恵を取り入れることで、できるだけ自分にストレスを感じさせない工夫をほどこしたりもしています。震えで指先に力が入らないものですから、布団の端に紐をくくりつけて少しの力で引っ張れるようにしたりしてね(笑)。最近は趣味でパズルをはじめたんですよ。完成したら、この事業所のどこかに飾ってもらおうかしら(笑)。こんなふうに思えるまでにはたくさん時間がかかってしまったけれど、今はここでやさしいスタッフの皆さんや仲間たちと過ごしている時間がいちばん幸せです。できないことの数だけ、当たり前のことができる日々に感謝しながらこれからも生きていきたいですね。



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